獄中者の家族と友人の会がスタート
山際永三
2002年に「獄中者とその家族が子どもを生み育てる権利を求める会」を立ち上げた星野暁子さんが、徳島刑務所に寒竹里江弁護士とともに要望書を出して、「どうしてそれがダメなの?」と素朴な疑問を訴えたとき、明治以来本質的に変わることなく運営と裁量権の根拠とされてきた「監獄法」は、大きくゆさぶりをかけられたと言える。なぜならば、星野さんの要求を否定する明文はどこにもなく、刑務所という国家の施設が、人間をただ閉じ込めておく場所なのか、社会復帰をするための場所なのかを、多くの人が否応なく考えさせられる契機となったからである。引き続く名古屋刑務所などでの一部刑務官による(組織的?)悪質な暴行事件・人権侵害が明るみに出て、国会では保坂展人議員の追及によりこれまで秘匿されてきた「死亡帳」が開示され、刑務所で死亡した受刑者のなかに、懲罰などの名目で懲戒具をかけられたり、懲罰(保護)房に入れられたりして、突然死をした例などが暴露され大問題となった。そして、「行刑改革会議」が発足し、「監獄法」の見直しが行われることになり、現在の国会で「刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律案」が上程されることにつながっていった。
拘置所(未決者および死刑確定者)、そして代用監獄留置場の問題は、切り離されて本年中に法案が出されるとのことだが、これはまた難しい問題をはらんでいるだけに予断が許されない。
刑務所に関しては、少なくとも外部交通(面会・文通)および医療の面での具体的な進展が大いに期待できる。土・日曜日の面会も、条文に入ることはなかったが、禁止の条文もないから、事情によって柔軟な運用が可能なはずだ。刑確定者の友人・知人の面会も大幅に緩和されるはずだ。希望すれば、外部の専門医に診察・治療を受けることもできるようになるはずだ。とは言っても、その際の治療費はどうなるのか、健康保険のない人はどうなるのか……など、問題は山積している。面会にしても、最近の社会情勢のなかでは、受刑者の「友人」が、どれだけ多く面会に行ってくれるか、家族にさえ見捨てられるようになっている受刑者も多いという現実がある。せっかく枠は拡がっても、それを実質的に利用活用しなければ、また元に戻ってしまうかもしれない。
明治以来「官」に押さえつけられたままで推移してきた日本の刑務所だが、果たして「民」の力がどれだけあるかを試されることにもなるだろう。そんな困難を予想させられる時期に、ある意味では必然的に、「獄中者の家族と友人の会」を発足させることになり、とても手に負えないとは思いつつも、当面ゆるやかな運動として、情報収集・相談・援助・集会・
提言・請願といった活動をやって行くつもりだ。とりあえず、世話人(山際永三・山中幸男・星野暁子・益永美幸)、顧問(海渡雄一・寒竹里江両弁護士)、事務局数名という態勢で始めて行く。この4月3日には、中央大学駿河台記念館で発足のつどいが開かれた。刑務所体験者、家族、保護司、弁護士など幅広く約六十人が参加してくれた。龍谷大学矯正・保護研究センターの桑山亜也さんが「イギリスにおける獄中者の家族支援NGOの現状」を説明してくれた。最近の十年にもならない期間のなかで、イギリスの刑務所人権状況は大きく変化したという。日本からみれば、バラ色にさえみえる充実ぶりと言える。なんといってもボランティア活動をする市民の力が、たいしたものなのだ。しかし、人権保障とはいうものの、刑務所の出入りなど厳しいセキュリティシステムが新たな人権侵害になっている現実も報告され、ボランティアが刑務所と協力しなければならないという側面もあることが印象的だった。日本での、われわれのボランティア活動はどうあるべきか、課題はつきない。
どうか皆さんのご協力をお願いする。連絡先は、〒168−0064東京都杉並区永福4−3−2共同事務所・Y山際、電話03−3328−7609、Fax03−3328−0865。よろしく。
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