国賠裁判での星野暁子さんの陳述
主治医から手術は成功と聞いた時、命の危機だった 私が国賠訴訟を起こしたのは、夫星野文昭の死に全く納得することができなかったからです。第7回目の口頭弁論を迎え、徳島刑務所と東日本成人矯正医療センターによって文昭に対する重大な人権侵害が行われ、文昭は殺されたのだということがはっきりわかるようになりました。
2019年5月28日、文昭の手術直後の主治医からの説明では「患部を全て摘出することができました。出血もありましたが、止血の措置を行いました。現時点では残存肝臓の機能は問題なさそうです。これから回復室に入り、術後のケアを行います」とだけ伝えられました。これを聞いて本当に喜びました。これで文昭が救われると思ったのです。しかし実際には、文昭は命の危機にさらされていたのです。
翌朝、医療センターから電話がありました。「周術期出血に伴う急性肝不全による全身状態の悪化のため重症」というのです。朝までの間に、文昭に何が起きたのか、文昭がどのように扱われたのか知りたいと思いました。(中略)
「保存的療法」を採用したといいますが、何もしないで出血が止まるのを待つというのです。言い訳にしか聞こえません。しかもカルテにはその旨書いていないのです。5月28日中に再開腹して止血していれば、術後の出血を止めることができたのです。これをやって欲しかった。そうすれば文昭は救われたのです。(中略)
「受刑者だから」「政治犯だから」文昭が死んでもいいと思っていたのか、医療センターにも徳島刑務所にも聞きたいと思います。
裁判長、公正な審理をお願いいたします。
国賠弁護団
痛打浴びせる医師意見書 土田元哉弁護士
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前回、被告・国が「準備書面(6)」を出し、今回は弁護団が「原告第4準備書面」と布施幸彦先生(ふくしま共同診療所院長)の意見書を出します。
「準備書面(6)」は、今までの被告の主張とほぼ同じです。徳島刑務所に関しては、「あらゆる腹症に対してエコー検査をする法的義務はない」と言い張っています。東日本成人矯正医療センターについては、本当におかしなことを言っています。
星野さんは術後の出血によって状態が急変するわけです。普通の病院であれば執刀医を呼びます。ところが医療センターはそれを行いませんでした。巨大な肝細胞がん切除という大手術は術後出血を想定した体制が不可欠ですが、患者の急変に対して医師を呼び戻す「オンコール体制」すらなかったのです。弁護団は、術後にショック状態に陥った星野さんに適切な処置をすれば助かったと主張してます。それに対して被告は、ある種の手の平返しをしました。ショック状態を否認していることは前にお伝えした通りですが、今度は「もう手遅れだった」というわけです。「肝臓がん切除は大変な手術で出血量が4000㍉リットルを超えていたから再開腹しても助からない」と平然と主張しています。
星野さんは手術後の夕方6時50分に血圧が下がり、せん妄のような発言をしています。7時半頃からは尿の量が極めて少なくなってきます。さらに午後11時40分には血中ヘモグロビン値が大幅に下がっています。明らかにショック状態でした。助けるためには、再開腹して出血を止めるしかないわけです。死との因果関係で、ここが一番重要な争点になっています。
布施先生の他に2人のお医者さんが意見書を書いて下さることになりました。そのうち1人は、誰もが知っている大学病院の肝臓外科の専門医です。
被告・国が「保存的療法」を主張していると言うと、医師は「それは違う。医者として検討するのは再開腹で止血することです。これだけ手術中に出血したのだから、術後出血が生じるおそれは当然ある。その可能性に備えないといけない。継続的に血液検査をすべき。すぐに数値の変化が表れる」。さらに「エコー検査をやれば、お腹の中にたまっている血の量や場所がわかる。それに踏まえてすぐに再開腹術をやればいいのです」と言われました。被告・国の主張が専門医の意見によって一刀両断にされました。
布施先生の意見書は、2018年の8月以降の星野さんの状況を具体的に分析し、胃に異常がなかったら「他に異常があるのではないか」とさらに調べるのは医師として当然であると明快に述べています。
いよいよ、勝負の大詰めの段階に入りました。
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星野新聞第119号 掲載
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