藤田城治主任弁護人 裁判所も釈明を促した
原告の訴状に対して国側の反論の書面が8月7日に出ました。国側の書面は本文で60ページほどの分厚い文書です。その中で一番注目すべきは、昨年3月1日に星野さんが徳島刑務所でエコー検査を受け、その結果、あの段階では「がんの疑い」という判断ですが、要するに「腫瘍は見えた」ということです。それを、当時の仮釈放審理中の更生保護委員会へ「通知していない」と国が認めました。これは重大な問題だと思っています。
国の準備書面をかいつまんで説明すると、一つは2018年8月に星野さんが倒れたのに、きちんとした検査をしないまま翌年2月まで放置していた。その間にがんの進行をどんどん進ませたという問題があります。あと一つは、3月1日のエコー検査で「腫瘍の疑い」を認めながら、そこから4月18日に医療センターに移送するまでの約一月半の間何もせず、放置したという問題です。
そして医療センターに移り、肝臓がん切除という、一番負担の大きい手術を選択した誤りと、手術後の管理が不十分だったという問題をこちら側は主張しています。それによって星野さんは殺されたという主張です。
今日は国の主張に対して求釈明のやりとりがありました。3月1日にエコー検査をやり、腫瘍を認めてから一月半、徳島刑務所や医療センターは何をしたのかという部分が今回の準備書面では一切書かれていません。「魔の47日間」といえるこの期間について、徳島刑務所や医療センターが何をやってたのか、をきちんと回答せよと、今回の期日の1週間前に裁判所と国側に通告していました。国側の法廷での答弁は、最初は「因果関係がないので答える必要はない」と逃げようとしたんですけども、そこは裁判所も「ちょっと待って。47日間何もしてないのはやはり問題あるから、きちんと回答するように」ということで国側は9月25日までに回答することになりました。
その上で今日は、今後の訴訟の進行について裁判所とやりとりしました。まずは、今回のこちらの求釈明「空白の47日間に何があったのかを回答せよ」への回答が次回までに出てきます。それを踏まえ、次々回にこちらの全体的反論を改めて行うという段階になっています。
岩井信弁護士 腫瘍マーカー高値だった
がんは早期診断が重要です。国側書面では、早期診断しなかったという私たちの主張の半分は認めました。ところが、星野さんの症状は必ずしも一見して明らかと言えず、早期診断はできなかったと主張しています。これについては全面的に反論の予定です。
もう一つ。血液検査で腫瘍マーカーというがんが強く疑われる数値が2、3月と連続して表れていながら、更生保護委員会に通知しなかったことです。
仮釈放審理では心身の状況は調査事項に定められています。これを、刑務所長は更生保護委員会に通知をする義務があると法令に定められている。この法令に違反して通知をしなかったのです。
一番重要な事実は、3月1日のエコー検査の後、3月15日に更生保護委員会の井坂委員長が星野さんに面会していますが、病気について聞かれていないことです。当然星野さんもその時自身にがんがあると認識していない。ですから、3月1日の直後に知らされていれば、星野さんは自分はがんであり、外部の病院で調べて治したい、そのためにも仮釈放しろと訴えられたにも関わらず、その機会を奪われたのです。
2月21日の血液検査でもがんの腫瘍マーカーが出ていた。がんを疑ったから3月1日に腹部エコー検査をした。そこで肝臓に大きな腫瘤を認めた。さらには同日血液検査もして、そこではpivkaⅡ(ピブカ)という数値が2422。このピブカの基準値は40です。ピブカは肝臓がんに特異な腫瘍マーカーで、進行度が高いほど高値を示す。まさに非常に高い数値が出ている。
最後に重要なことは、誰が何の決定をしたのかを固有名詞を明らかにして、法廷で尋問し、真実を明らかにすることです。誰が巨大ながんを発見し、更生保護委に報告しないと判断したのか、その根拠は何か、それを固有名詞と共に明らかにしたいと思います。受刑者と受刑者でない者との違いを考慮しない。これは医師の倫理のはずです。誰がピブカの数値が大きくても無視するとしたのか。これは許してはならない。医師だけでなく、判断に関わったすべての職員の責任も追及したいと思います。
土田元哉弁護士 請求の拡張を申し出た
短い補足をしたいと思います。被告国の準備書面として反論が提出され、その後に求釈明のやりとりがありました。裁判の最後の方に弁護団から今回の訴訟の請求を拡張するという方針を裁判所に伝えました。
今までの訴状では、星野さん自身に生じた損害を暁子さんやご兄弟が相続をした、という構成でした。今日の法廷で、次回期日あたりまでに、暁子さんや親族が受けた固有の損害もあるという主張をする予定だと伝えました。
加えてもう一つ。本来刑務所とか刑事施設の長は、収容されている人の、たとえば氏名や生年月日、生活歴、そういった必要な事項に加えて心身の状況も通知しなければならないというのが基本的な法律の立て付けになっています。仮釈放審理があった時に、その人の健康状態はちゃんと気にして、本当にまずい状況にあれば適切に仮釈放を出さなければならないので、そのような通知をしておきなさいという、法律上の立て付けはある訳です。
先ほど先生方から「魔の47日間」が説明されました。星野さんの腫瘍マーカーが出て、体調が悪くなっていくということを通知しなかったこと自体は、争いが無かったのですが、まさにこの期間は文昭さんの仮釈放が問題になっていた時期で、この時期に刑事施設の長が分かっていて更生保護委員会に通知をしなかったというのは、まだ確定的な事実関係で言いにくいですけれども、これは仮釈放審理に影響を与えたと思えてならないところです。刑務所が受刑者の心身の状況を勘案せずに仮釈放審理をそのまま終わらせてしまうことに加担して良いのかという問題です。今回亡くなったことに対する責任を追及すると共に、この仮釈放を巡る闘いというのも問題になるというところを、意識をしっかり持って請求の趣旨の拡張、戦線が広がるイメージで合わせて闘っていきます。
和久田修弁護士 センター外で治療できた
今日の段階で、まとめますと、一つは、更生保護委員会に通知しなかったという点は大きいと思います。3月1日に腫瘍マーカーにすごい数値が出て、エコーでもものすごい腫瘤があるわけですから、ほぼがんであることはわかっていて、それを更生保護委員会に通知し、そこで仮釈放が出ていたら、医療センターであんな手術を受ける必要はなかったわけです。
もう一つは、3月1日から4月17日の空白期間です。4月18日に文昭さんは医療センターに移送されます。その後の検査は、超音波とCTと血液検査だけです。で、この3つの検査で6日後にはがんの確定診断が出る。
そうすると、47日間に、CT検査は別にして、少なくとも超音波と血液検査はできるはずで、確定診断を47日間遅らせたことを徹底的に追及したいと思っています。
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星野新聞第106号 掲載
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