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国の主張から見えてきた獄中医療の実態
星野国賠の現段階

第2回口頭弁論後の報告集会。弁護団から徳島刑務所による
「魔の47日間」追及方針が説明された(8月27日 日比谷
)

 星野国賠もすでに2回口頭弁論期日(裁判)が行われ、星野文昭さんに対して行われた許しがたい獄中医療の実態と、それを開き直る国の態度が浮き彫りになってきました。土田元哉弁護士に裁判の現状報告と国の主張の批判をして頂きました。
これまでの期日の流れと国の主張
 星野文昭さんの獄死をめぐり今年の2月21日に提起された国賠訴訟は、第3回口頭弁論期日を12月3日に控えています。8月27日に開かれた第2回口頭弁論期日では、被告である国が徳島刑務所と東日本成人矯正医療センターの責任を全面的に否定する主張を記載した第1準備書面を提出し、9月25日、さらに追加の準備書面を提出しました。
 第1準備書面での被告の主張は概ね、①星野文昭さんが徳島刑務所に在監した2018年6月当時、γGTP(胆管細胞に存在する酵素のこと)の数値が上昇したことや、同年8月から文昭さんの体重が減少したことを踏まえても、がんを含む悪性の疾患を疑うべき事情とは認められず、徳島刑務所の職員が文昭さんの肝臓に対する検査を実施すべき注意義務は発生しない、②2019年3月1日に行われた腹部エコー検査で、文昭さんの肝臓に腫瘤(しゅりゅう)があることが判明した後は、速やかに医療センターへの移送手続が行われており、徳島刑務所長の移送に関する措置に国家賠償法上の違法性はない、③腹部エコー検査の結果を文昭さんに告知しなかったことについても違法とは評価できない、④医療センターは文昭さんに対する肝細胞がんの切除手術を行うに適切な施設であったことに加え、術後の文昭さんの状態管理にも何ら問題はない、というものです。
 なお、第2準備書面は、文昭さんへの腹部エコー検査が行われてから、医療センターへの移送が行われるまでの47日間の経過を内容とするものでした。

明らかとなった獄中医療と国の姿勢
 国の主張は、改めて獄中医療の問題を浮き彫りにするものでした。2019年3月1日に文昭さんの肝臓に腫瘤があることが判明してから医療センターへの移送まで47日間もの期間がかかったこと、検査結果が患者である文昭さんに告知さえされなかったことなど、収容施設外の医療施設では起こりえない事態なのではないでしょうか。その上、移送先の医療センターで文昭さんに手術が行われた後、当直医である麻酔医以外の担当医が帰宅し、翌朝の診療まで文昭さんを診察した事実が存在しないと思われることをはじめ、医療センターには、文昭さんへの手術自体に十分対処できる体制が整っていたとうかがうことはできません。すなわち、医療センターが文昭さんの手術に適した施設であったのかとの点についても、重大な疑問が生じるのではないでしょうか。このように、獄中での医療は、一般の病院で行われる医療行為とはかけ離れたものであることが判明してきたと思います。
 さらに、獄中で求められる医療行為に関する国の姿勢も明らかとなりつつあります。
 国は、刑事施設の被収容者に対して行われるべき医療行為について、「被収容者に対し、一般の病院・診療所に求められている水準の医療上の措置が講じられなければならないというべき」と主張しながらも、刑事施設における医師等と被収容者との診療関係が通常の診療契約とは異なるなどとして、「個々の被収容者の症状等に対し、いかなる医療措置を講じるか等の判断については、医学に精通し、当該被収容者の素質及び病状等を十分に把握している刑事施設の医師等の補助を受けた刑事施設の長の専門的、技術的判断に基づく合理的裁量に委ねられている」などと結論づけています。

命を守る治療に裁量の余地はない
 しかし、疾患のある被収容者の生命を守るためにどのような医療行為が必要かは、一義的に定まるはずです。必要と認められる医療行為を直ちに行うことはもちろん、収容施設で行うことができない場合には、被収容者を他の病院に転送するといった措置をとること、これが「一般の病院・診療所に求められている水準の医療上の措置」なのであって、刑事施設の都合で必要な医療行為を講じない裁量など許容しえないのではないでしょうか。
 国の主張は結局、刑務所内の秩序を守るためなら患者である受刑者の生命や身体の安全が蔑(ないがし)ろにされることもやむを得ない、という姿勢の顕れと評価せざるを得ません。 今後は、原告側として第1準備書面を提出し、国の主張に反論を行うことになりますが、徳島刑務所、医療センターそれぞれの医療体制のあり方を追及していかねばなりません。




星野新聞第108号 掲載