ビデオ国賠控訴審判決 2015年5月13日
5月13日、東京高裁第9民事部(奥田正昭裁判長)は、証拠となっていたビデオテープが、裁判所、及び、そこから委託を受けた警視庁公安部によって紛失された責任を問うビデオ国賠控訴審判決で各20万円の損害賠償を認めた1審判決を覆し、星野さんの訴えを全部棄却するという逆転敗訴判決を下しました。 私たちはこの不当判決に上告し、星野さんの「証拠に対するアクセス権」という、前例のない新しい権利の有無をめぐる裁判は最高裁へと舞台を移しました。 証拠に対するアクセス権 ビデオテープがずさんな管理の結果、紛失されたという事実は、国・東京都といえども否定できません。そこで、ビデオ国賠での争点は、ただ一点、再審請求人である星野さんに、再審事件のために証拠を閲覧し利用する権利=「証拠に対するアクセス権」が法的権利として認められるかどうかにかかっています。 地裁判決の判断 第一審の東京地裁は、この証拠に対するアクセス権について、白鳥決定(再審開始決定をするかどうかは、新証拠と確定判決で取り調べられた旧証拠を総合的に評価して決するというもの)をもとに、再審請求人には「新証拠と関連する旧証拠を検討評価する前提としてこれを利用する利益ないし期待権」があることを不十分ながらも認め、裁判所・警視庁による証拠の紛失は、これを違法に侵害したものと判断しました。 高裁判決の認定 これに対し、今回の控訴審判決で奥田裁判長は、以下の驚くべき理屈により、星野さんの証拠の保管・利用を期待する権利・法的利益への侵害はないと判断しました。 「本件ビデオテープについて、押収物の保管機関である裁判所職員又は裁判所から保管を委託された公安総務課長において、本件ビデオテープが再審請求の審理において、重要な証拠として利用される蓋然性(可能性が高いこと)があることを知り、あるいは容易にこれを予見することができた場合には、再審請求人である被控訴人(星野さん)は、その限りにおいて本件ビデオテープを再審請求の審理において利用しうる利益を有するものというべきである」 そして、本件の結論として、本件のビデオテープを紛失したことが判明したのが、2008年4月で、その後、星野さんの着衣が、共犯証言の「きつね色」ではなく、「薄青色」であったことが同年7月の第一次再審請求の特別抗告事件で言及されたことで、「服の色」が重要な争点として浮上したのであるから、それ以前に、ビデオテープのような映像証拠が重要な証拠となるかどうかについて、裁判所職員・警視庁公安総務課長とも知り得なかった、ゆえに、「星野さんの証拠に対するアクセス権」は保障されないというものでした。 高裁判決の不当性 高裁判決の不当性は、第1に、保管の責任をおっている裁判所や警視庁において、「これは将来重要な証拠になる」と予想できなければ、紛失したとしても責任は発生しないという理屈は明らかに破綻しています。なぜなら、証拠が、将来どのような価値・意味合いをもってくるかは、誰も分からないからです。かつては重要と思わなかった証拠が後々に決定的な証拠となることは、決して珍しいことではありません。したがって証拠は「全てが」適切に管理されなければならず、担当者が重要に思えば、星野さんの証拠に対するアクセス権が認められ、重要と予測してなければこの権利がなく、紛失したとしても責任を負わないというのは、真実発見のための証拠の管理・保管の責任を放棄する理屈です。 第2に、致命的に論理が破綻しているのは、星野さんの権利が保障されるかどうかが、加害者である裁判所職員・警視庁公安総務課長が、「このビデオテープは将来、再審で重要な証拠になるかもしれないと予測できたかどうか」にかかっている点です。つまり、担当者が「たいした証拠ではない」と思っていれば、再審請求人には、それが保管され、将来の再審で使う権利や利益は保障されないとう論理です。 破綻した論理でアクセス権否定 この判決の背景には、星野さんの政治犯性が一つと、もう一つは、再審請求での証拠に対するアクセス権を認めてしまうと、全国の再審事件、そして証拠開示に大きな影響を与えるという危惧があります。「ずさんな管理によって紛失した事実」は否定できない以上、裁判所職員に予見可能性があったかどうかで、星野さんの権利が保障されるかどうかが決まるという、破綻した論理により、星野さんの「アクセス権」を否定したのです。星野さんを敗訴させるという結論先にありきだったとしか思えません。 本件は「証拠へのアクセス権」を問う事件としてはおそらく、国内初の事件です。また、証拠へのアクセス権は、全証拠開示の理論的根拠ともなる権利です。破綻した論理による本件の不当判決は、必ず上告審で覆さなければならないと思っています。 「証拠に対するアクセス権」を初めて最高裁に問う上告審を今後ご注目・ご支援をよろしくお願いします。 |