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  2013年7月16日 第13回裁判  記事と陳述書


 事実関係に蓋をした結審を弾劾する!

 7月16日、東京地裁民事第45部(山田明裁判長)で第13回ビデオ国賠裁判が開かれました。星野文昭さんの裁判で証拠採用されていたビデオテープを、裁判所が警視庁公安部に保管委託し、警視庁公安部が紛失(!)したことを弾劾する裁判です。
 前回、山田裁判長は、「保管委託」と「紛失」に至った経緯を明らかにするための証人申請を全て却下し、今回で結審を通告してきました。
 この許せない訴訟指揮に、藤田城治弁護士は、国(裁判所)と都(警視庁公安部)を弾劾する最終意見書を提出し、法廷で怒りを込めて要旨を陳述しました。
 刑訴法では、危険物など「保管に不便」なもの以外の、証拠物の庁外保管を認めていません。他の事件ではビデオテープは裁判所内に他の記録と共に保管されており、「保管に不便」という事情は全くありません。保管委託は違法です。
 警視庁は証拠品の保管には帳簿をつけると言いながら、星野さんのビデオテープには「帳簿が存在しない」と言いました。また、星野さんはビデオテープの所有者ではなく、これに何の権利もない、従って、何故帳簿が存在しないのか等、一切答える必要はない、と言うのです。こんなふざけた居直りは断じて許せません。
 裁判所は、違法にも関わらず何故保管委託したのか、警視庁は、どこにどのように保管していたのか、帳簿は当初は存在したのか否か、事実関係に蓋をしたまま結審を強行した山田裁判長を徹底的に弾劾します。
 証拠開示をしないばかりか、証拠隠滅までして、無実の星野さんに獄中を強い続ける国家権力を絶対に許しません。フクシマの怒り、オキナワの怒りと一体に、全証拠開示・再審開始を絶対に勝ち取りましょう。次回判決公判に全力で結集しよう。

最終意見陳述
              2013年7月16日 原告代理人弁護士 藤田城治
第1 はじめに
1 本件は、再審請求人である原告が、刑事事件で証拠として採用され、保管されていたはずであったビデオテープが失われたことの責任を問うものです。そして、本件は、被告人・再審請求人の証拠にアクセスする権利、保管に対する権利への侵害を問う、最初のケースとなります。
  本件ビデオテープには、先日のニュース映像にあったとおり、鮮明なカラー映像で移動するデモ隊の様子が映っていました。しかし、これは紛失された本件ビデオテープの映像のごく一部に過ぎず、原告及び再審弁護団の誰一人として、確定判決において有罪の証拠として引用されたこの映像全体を見ることはできません。そのため、この映像を分析して、確定判決で核心証拠となった共犯者供述の矛盾を指摘することも、さらに、現在の優れた映像解析技術を通じて、さらなる矛盾の指摘、具体的には、原告とは別人の「きつね色の着衣の人物」「奥深山氏の行動についての矛盾」を指摘することもできなくなる不利益を被っています。このことは、原告の再審請求において大きな不利益をもたらしています。
2 本件では、証拠が失われたという事実には争いがないものの、国は、保管を委託したことは刑訴法121条に基づく適法な行為であったと主張し、東京都も、証拠が失われたことに対する過失を認めていません。私たちは、この争いのある事実関係を明らかにするために、証人尋問を請求しましたが、裁判所は、これを全て却下しました。この決定は、原告、弁護団、そして傍聴人をはじめとする多くの者の「真相を究明したい」という期待を裏切るものです。
 しかし、少なくとも、上記の二点については、裁判所は、保管委託と証拠紛失がいずれも国・東京都に違法行為があったことを前提にするものと思っています。なぜなら、証拠調べを却下しながら、私たちの主張を認めないというのは、明らかに審理を尽くしていないものとなるからです。
3 まず、この点を指摘したうえで、これまでの原告の主張をまとめます。

第2 被告らの違法性について
1 原告には、ビデオテープが保管され、これにアクセスすることができる法的な権利ないし利益が保障され、少なくとも、これに期待し信頼することが、法的利益として保障されること
 この法的な根拠は、指宿信教授の法律鑑定意見書(甲18)において明らかですが、ここで強調しておきたいところは次の点です。
(1) 第1に、証拠開示に代表される証拠へアクセスする権利は、適正手続の保障(憲法31条)に基づくもので、現在拡充された証拠開示手続は、法が定めた公判前整理手続対象事件だけではなく、それ以外の通常事件、さらには、再審事件においても同等に適用すべきと言われていることです。
(2) 第2には、証拠へのアクセスは、検察官の手持ち証拠(未開示証拠)への証拠開示のみならず、取り調べ済みの旧証拠についても保障されなければならないことです。白鳥決定は、新証拠と旧証拠との全証拠を総合的に評価して判断すべきと述べています。田宮教授の言葉を借りれば、再審請求においても、新旧の全証拠が、新証拠と同じ価値を持ち、新証拠は、いわば「起爆剤」であれば足りるということです。従って、取り調べ済みの旧証拠の価値は、再審段階でも失われておらず、そのアクセスも当然に保障されなければならないということです。
(3) 第3として、この証拠へのアクセス・保管は、自分に不利益な証拠を弾劾し、有利な証拠については援用するという、被告人・再審請求人の防御権そのもの前提をなすことです。刑訴法上の証拠の閲覧の保障や、捜査機関や裁判所に証拠物の適正な管理保管義務は、単なる公益目的ではなく、被告人、再審請求人の防御権の保障、つまり適正手続の保障によっても義務づけられていることは明らかです。
 したがって、証拠のアクセス、保管に対する権利は、当然、法的な権利、利益として保障されるべきものです。
(4) そして、第4に、少なくとも、本件のように証拠採用され、裁判所が適切に保管しているはずの証拠については、再審請求人は、これが適切に保管されていて、アクセス(閲覧)できるできるはずという期待と信頼を持って当然だということです。最高裁は、NHKの番組改変の訴訟で、NHKには、番組の編集権があることを原則としつつも、一定の場合は、取材対象者には、自己が一定の内容・方法で取り上げられるはずだという期待と信頼が法的利益として保障され、これに反した番組が制作された場合には慰謝料請求権が発生することを認めました。
 したがって、刑事被告人、あるいは再審請求人には、裁判所が押収した証拠は、きちんと保管されているはずと期待と信頼を持つことは当然のことで、さらには、適正手続の保障からは、より強く保障されることは明らかです。
 まして、本件の場合は、共犯者である奥深山氏の事件が係属中です。この期待と信頼は、通常の再審事件の場合以上に、当然に法的利益として保障されて然るべきものです。
(5) 以上のとおり、原告には、本件ビデオテープが保管され、これにアクセスすることへの権利、あるいは、これに期待と信頼をすることが法律上保護される利益として、保障され、本件ビデオテープを紛失したことが、この権利・利益への違法な侵害となることは明らかです。
2 東京地裁の証拠の紛失については、「裁判官の職務行為が国家賠償法違法となるのは、『特別の事情』が必要という、昭和57年最判は適用されない
 国は、裁判官の職務行為が国賠法上違法となるのは、単なる故意過失ではなく、権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使し、または行使しなかったというような「特別の事情」が必要と主張しています。
 なるほど、裁判官の行う判決、その他の決定等については、誤りがあったとしても、上訴、再審、その他の不服申立権に基づく是正が可能ですから、職権の独立保障の観点からも、そのような解釈も可能といえましょう。しかし、裁判官が行った、例えば移動中の交通事故、あるいは証拠を見ていたらうっかり破壊してしまったというような事実的な不法行為については、職権の独立等は無関係で、他の一般公務員となんら違いはありません。そして、このような損害を受けた場合、被害者は、上訴、再審等の不服申立もできません。このような場合に、国家賠償法に基づく請求を、国が主張するように著しく限定する解釈は、国家賠償請求権を保障した憲法17条に反することは明らかです。
3 東京地裁の警視庁公安総務課長への保管委託は、刑訴法121条に反していること
 なお、国は、自ら、保管委託行為は、刑訴法121条に基づくもので適法と主張しています。
 しかし、ビデオテープのどこが保管に不便なのでしょうか?おそらく、本件以外の他の事件では、ビデオテープや録音テープは、裁判所のキャビネットに他の記録とともに保管されているはずです。したがって、保管に不便という事情はなく、保管を委託したこと自体、違法であることは明らかです。さらには、委託先は証拠の紛失が絶えない警視庁です。警視庁の保管態様を問うこともなく、保管委託先の選択を誤った点でこの違法な保管委託と紛失には因果関係があります。

第3 損害
1 慰謝料が認められるには、「新証拠となる可能性が明らか」で足りる
 被告らは、慰謝料請求が認められるには、原告の側で、本件ビデオテープに基づく解析結果(新証拠)が、「新規・明白」な証拠に該当することを立証しなければ、慰謝料請求は認められないと主張しています。
 しかし、被告らの紛失によって、原告、そして弁護団は、本件ビデオテープを見る機会を奪われました。
 かりに、再審請求と全く無関係であることが明らかな証拠であれば、再審請求上の不利益はないともいいえます。しかし、新証拠となる可能性が明らかな証拠については、それに接し、引用するという、当然の防御・弁護活動が出来ないという手続き上の不利益を強いられます。
 したがって、慰謝料請求が認められるには、「新証拠となる可能性が明らか」で足りることは明らかです。
2 本件ビデオテープ価値(失われたことによる原告の損害)
 そして、本件ビデオテープは、本件の核心ともいえるデモ隊の行動が、鮮明な画像で記録されていました。
 この映像を直接見るだけでも、さらには、これを詳細に解析した結果を新証拠とすることで、核心証拠となった共犯者供述の矛盾を指摘し、その信用性を弾劾できたという、可能性があることは明らかです。
 この手続的上当然にできるはずのことを妨害され、再審請求上の不利益を受けました。無実を訴え38年の投獄と闘っている原告を慰謝するに足りる金額は1000万円でははかりしれないものです。

第4 最後に
 現在、再審無罪判決が相次いでいます。いずれも、検察官の手持ち証拠が新証拠となって、これが再審無罪につながっており、再審請求における証拠開示が、大きく注目をあびています。今月にも、1966年の袴田事件の再審において、静岡地裁が、証拠開示の勧告をしたことが大きく報道されました。
 本件は、証拠開示の対象となる未開示の証拠ではなく、旧証拠(しかも共犯者の事件は係属中)、つまり、再審請求にあたり、当然に、閲覧することができたはずで、しかも、映像証拠という重要証拠が失われたというものです。本件で、原告に証拠へのアクセス・保管に対する権利・利益の侵害はない等という判断をすることは、未開示証拠については、廃棄しても誰も責任追及できないということにすら繋がりかねず、再審・証拠開示の拡大という流れに明らかに反することになり、国民から大きな批判を受けることは明らかです。
 指宿教授が指摘したとおり、この権利・利益については、現在、「法の不備」の状態にあります。したがって、この権利・利益が法律上保障されていることを承認することが、司法権に課せられた使命です。
 よって、原告の請求を認容し、被告らに慰謝料の支払いを命じる判決を求めます。
                                以上