4月25日、東京中野の「なかのZE RO視聴覚ホール」で桜井昌司さん(布川事件元再審請求人)と土田元哉弁護士(星野国賠訴訟原告代理人)をお招きして講演集会が行われた。 この集会は、星野さんをとり戻そう東京連絡会と一般合同労組東京西部ユニオンの共催で行われ、65人が参加した。
桜井さんは、でっち上げを打ち砕いたのは、警察や検察のウソを暴いたこと、権力に対し顔を真っ赤にして怒ったことだと熱く語った。
土田弁護士は、徳島刑務所ががんの治療と告知を放棄、及び東日本成人矯正医療センターが術後出血を放置した違法があると弾劾し、医師意見書の重要性を明らかにした。(講演要旨 文責は編集部) |
運動と一体で裁判を闘う
星野国賠訴訟原告代理人弁護士 土田元哉さん
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先ほどの桜井さんの裁判所や検察への激烈な怒りのお話を聞いていると、彼が経験した冤罪と星野国賠というのは本当に共通点が多いです。国家意思の下で人権が無視されています。無期懲役だった星野さんも含めて受刑者が皆そうですし、入管収容施設もそうです。国は国家意思の貫徹のために平気でウソを言い、証拠を隠す。こちらの主張にまともに答えない。
今回の演題は「重要な段階に入った国賠訴訟」です。なぜ重要かといえば、星野さんが亡くなった経過には、医療的、科学的説明で、原告側は昨年末にかけて3人の医師意見書を出しました。この意見書はこれまでの争点整理の集大成で、被告がどう反論するかでほぼ結論がつくと思います。
医師の意見書で国を全面批判
3人の意見書のうち最も星野さんの死に近い場面は、医療センターでの術後の場面で肝臓外科専門医の方が書いています。星野さんの手術で4千㍉㍑以上の出血がありましたが、一応手術は終わり、夕方に「回復室」という不十分な施設に移され、その後急激に血圧が低下しショック状態になる。血流不足で腎機能が低下。しかし、これを放置して止血しなかった。
これに対する国の主張は、術後出血に伴う「ショック状態に陥ったという事実がなかった」ので、「気付かなくてもやむを得ない」というものです。なおかつ「保存的治療でも血が止まることがあるから、別に再開腹しなくてもいい」と述べています。もっとひどいのが「どうせ死んでた」という主張で、「どうせ助からないんだから」「死亡と注意義務(再開腹をすべき義務) 違反は関係ない」と言っています。
この国の主張を肝臓外科専門医が真っ向から批判します。「腹部超音波検査を施行することの重要性を認識せず漫然と昇圧剤やアルブミン製剤の投与のみを施行し…血圧が低い状態や尿量が少ない状態を長引かせ、…術後出血を早期に発見し開腹止血術を受けて救命される可能性を奪ったという意味でこの過失は重大」と述べています。 徳島刑務所の責任についても被告は、「必ずしもγ(ガンマ)GTPが上昇したり、体重減少が肝臓がんを示唆する所見とまではいえない」からエコー検査実施の法的義務はないと主張します。さらに、検査でがんがわかって、他の病院に移送すべきというのに対して、「刑務所は外部の病院に打診し、連絡調整を行っていた」とウソを言った。
これに対してふくしま共同診療所・布施幸彦医師の意見書は、体重減少や肝機能数値異常の原因は、発がん性有機溶剤を使った刑務作業。酒も飲めない環境でγGTPが上がるのは、それ自体異常で、体重減少やコレステロール値の検査所見をあげて、これは不審に思ってしかるべきと書いています。星野さんに異常が生じたのは明らかなのだから、少なくとも「肝臓がん」を直ちに疑わなかったとしても、実際に行った胃カメラで胃に異常がないなら他の臓器に異常がないか、検査をやればがんは見つかったと書いています。
3人目のA医師は、病院での内科医の経験に基づいた意見です。体重が半年間で5%以上減少すれば、それは医学上有意な体重減少で、疾患を疑ってきちんと判別しないといけないと指摘します。何で体重減少が起きた時期からずっと後の2019年3月まで超音波検査が行われなかったのか理解できないとも述べています。医療センターの術後対応についても、急激な血圧低下の時点で既にショック状態だったのになぜ止血しなかったのかと
正面から批判しています。肝臓外科専門医と布施医師の意見の両方を裏打ちする意見を書いています。
3人の医師意見書は、国の主張を真っ向から批判するものです。裁判所はこの意見書を見て、前回1月27日に国に対して「被告は書証の提出予定はあるか」と聞きました。この意味は明白で、原告側から専門家の医師の意見書が出たのだから、「国も医師の意見書を出せ」と暗に言ったわけです。被告代理人は「提出できるかどうか検討中」と言いました。国は口頭弁論がここまで進む中で国側の医師意見書が出ても全然不思議はないわけです。全部情報を持っているわけですから。次回の5月19日にどういうものが出てくるのかが、とても重要だと思います。
次回裁判で勝負は決まる
これまでに原告側から専門家である医師の意見書が一挙に出て、これに対する反論は専門家からされなければならない。それこそ国の責任です。それができるかどうか、が今問われている国賠の現状です。ここで勝負が決まると言えるでしょう。すべての基礎は医学的知識、意見書が根幹です。弁護団としては、外で大きく運動を広げ、裁判闘争と一体となっていただきたいと思います。我々も皆さんの闘いと一緒に、この社会全体の問題だと強く訴えて、裁判に勝ちたいと思います。
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星野新聞第127号 掲載
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