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1月22日、阿佐谷講演集会 記事と岩井弁護士講演        

 
星野文昭さん獄死を許すな集会

 1月22日、阿佐ヶ谷での絵画展の最中、国賠訴訟の弁護人でもある岩井信さんを招いて講演会が行われ、60人が結集しました。コロナの緊急事態宣言で当初予定の赤池一将・龍谷大学教授の講演が中止となり、時間も短くなる中での開催で
した。
 集会は、原告で家族の星野暁子さんのアピールから始まり、岩井弁護士が国賠訴訟の核心点について述べました。(講演内容は2面参照)
 講演後、質疑応答が行われました。星野さんが殺された責任を何としても追及したい真剣さと緊張に会場が包まれました。絵画展にジョージ・フロイドさんと星野さんの絵を贈呈していただいた画家の近藤あき子さんも参加され、激励のあいさつをいただきました。
 最後に全国連絡会議共同代表の狩野満男さんがまとめを提起し、集会を終えました。
 2月8日の第4回口頭弁論では、国側の反論が行われる予定です。どんな言い訳を並べてこようと事実を元に毅然(きぜん)と跳ね返し、星野さん虐殺の責任を絶対取らせましょう。(東京連絡会 吉川建明)

国賠訴訟の現段階
―誰に責任があるのか―

                    
代理人弁護士岩井 信

 
1月22日の「星野文昭さんの獄死を許すな!講演集会」で、訴訟代理人の岩井信弁護士が「国賠訴訟の現段階―誰に責任があるのか―」と題し、国賠闘争の核心を提起しました。講演要旨を紹介します(文責・事務局)。
 昨年2月21日に訴状を提出しました。6月22日には第1回裁判が開かれ、簡単な被告国の答弁書が出て、8月27日に第2回裁判が開かれ、国が最初の準備書面(1)を出しました。

     ◇

 10月8日の進行協議では、こちらの求釈明に対する国の答えが出ました。これは、2019年3月1日のエコー検査で肝臓に大きな腫瘤(しゅりゅう)が見つかり、彼らは直ちに外部の医療機関への移送手続きをしたと主張していました。ところが、その形跡がどこにも書かれていないので、もっと詳しく書けと、釈明を求めました。それに対して、国側は準備書面(2)を出して、「こういうことをしていた」と説明してきました。それで一通りの国側の主張が出ましたので、私たちは12月3日の第3回裁判で、原告準備書面(1)として全体的な反論をしました。
 私たちは徳島刑務所にも、医療センターにも責任があると追及しています。
 徳島刑務所は星野さんが体調不良を訴えているにも関わらず、その原因を究明しなかった。また、エコー検査で肝臓に腫瘤を発見しながらその鑑別を直ちにしなかった、これが徳島刑務所の違法行為です。
 また医療センターは手術前の時点で、星野さんへの健康配慮義務を怠った。巨大ながんの切除はリスクが大きい。であれば、手術後にきちんと管理出来る所でやらなければいけない。しかし、医療センターにはその体制がない。そのような困難な手術をするなら転院すべきだった。にも関わらずここで手術を強行したことで、後の問題を引き起こしたのです。
 また手術後も、星野さんは出血によってショック状態になったにも関わらず、直ちに適切な処置をとらなかった。それが死に至らしめた原因です。


医療は獄の内外同じであるべき

 これに対して国は、徳島刑務所にも医療センターにも責任がないと強弁してはばかりません。国の最も根幹の主張は何かと言うと、「私たちには責任がない、何故なら刑務所だから」ということです。国は、刑務所長がしたことに合理的裁量があるから何の問題もない、と言っています。この考え方を打破する必要があります。
 拘禁の性質上仕方がないということですが、果たしてそうでしょうか。刑罰は
 自由を奪うことが本質で、医療を受けさせないことではない。医療については、本来は外部で行われるのと同じでなければならない。結局、刑務所の中の「患者」は「医療」という形で外部とつながります。医療は刑務所の壁を突破して、壁の内外で同じでなければならない、この考え方を広げていくこと。受刑者だから医療水準が低くて良い、手厚い看護を受けなくて良い、こういう考え方を打破していくこと。これがこの裁判の最も重要な目的だと思っています。
 今後の課題は何か。 国賠訴訟は一般的に簡単な裁判ではありません。刑務所の中の出来事なので客観的な証拠を私たちはつかめず、事実認定の際、言った言わないの議論にもなる。裁判所は国は意図的に過ちをしないというところから出発して判断するので、私たちの主張を認めてくれない。これが非常に難しいポイントです。

社会・法律の構造にも責任ある
 ただ今回の裁判では、カルテをはじめ、証拠をごそっと差し押さえることが出来ました。医療過誤訴訟でもあるからです。医療が獄中と獄外をつなぐキーワードと言ったのは ここにも大きな意味があります。
 手術当日の夜、医師たちは皆帰って、当直医が一人だけ残った。真夜中は、4時間誰も見回らない。で、このことを指摘したら、「刑務官が巡回しているから問題ない」と言ってきました。しかし、刑務官は看護師ではありません。看護師が巡回するのは医療の措置を執るためです。刑務官は医療を行うことは出来ません。
 そういうことを具体的に指摘するためにも、証拠があるということは非常に重要です。私たちはこれをきちんと活用して、刑務所という密室性を「医療過誤訴訟」という窓口により突破し、開放しなければいけません。
 もう一つ、私たちは、やはり技術的な細かい医療過誤訴訟の議論に入るだけではなくて、大きな真実を明らかにさせるという目的を常に持っていないといけない。誰が、そして何が意図的にこういう問題を起こしたのかということを私たちは突いていかなければいけません。
 今回の事態はなぜ起きたのか。徳島刑務所は仮釈放審理に影響させないように医療情報の提供をしなかった。星野さんにも伝えなかったし、移送手続きも遅らせてしまった。それが今回のような大事に至る原因の一つになったのです。
 さらには、刑務所における医療の考え方により、結局は刑務所長が何でも決められると、だからこの程度やっておけば良いんだという考え方がいろいろな場面で出てきます。これを暴いて、これを打ち砕いていかなければいけない。
 徳島刑務所は原因を究明しなかった。医療センターは真夜中見回りをしなかった。朝の見回りで、手遅れの状態が発見された。受刑者だからこのような医療が許されて良いのか。 誰に責任があるのか。まず、徳島刑務所、医療センター、また、そこで関わった人達に責任がある。と同時に、その個々人に、「これは刑務所の中だからこれくらいで良いだろう」という考えを作り出している社会の構造、法律の構造、これにも責任がある。
 個人の責任と、そのような考えを許し、促す社会の構造の責任。この二つを常に視野に入れながら、裁判を進めていきたいと考えています。

星野新聞第112号 掲載