更生保護は社会内処遇を主流に
古畑恒雄弁護士講演(要旨)
 

1933年長野県飯田市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科修士課程修了。1960年検事に任官。最高検公判部長として退官するまでの間に、法務省保護局総務課長と保護局長を務める。
 更生保護法人「更新会」理事長を務め、「寄り添い弁護士」を提唱している。20188年に第9回作田明賞の優秀賞を受賞した
私は1933年生まれですが、今も現役の弁護士です。「寄り添い弁護士」と紹介されましたが、ホリエモンや、鈴木宗男さんらをお世話し、もちろん多くの無名の人たちもお世話してきました。
 弁護士の仕事というのは裁判が確定すると終わりです。有罪になった受刑者に面会に行く人もいますが、ごくわずかです。
 私は弁護士としてどういう仕事をやっていこうかと考えた時、一番陽があたらない部分の仕事を引き受けようと思ったのです。
 検察官だった時に、法務省保護局の局長と総務課長を4年と少しの間やりました。中曽根首相の時に、行政改革の一環として更生保護を矯正と一体にしてしまおうという動きがありました。矯正保護局という名前まで用意されていました。
 しかし私は、理念が違うものを一つにするわけにはいかないと主張してこれに反対しました。社会内処遇が主流になるべきだということを強く主張しました。その結果、今も矯正局と保護局の二つあります。

   命を奪う施設内処遇
 更生保護は刑務所に入れておくだけで良いわけではありません。刑務所に閉じ込めておくといろんなことがあります。雑居房だと他の受刑者との人間関係があり、刑務官との関係もあり、懲罰の問題、病気の問題等いろいろあります。
 施設内処遇においては、病気の問題が最大の問題です。外の生活ならすぐ病院に行けるのに、施設内にいるばかりに満足な治療を受けられず、命を落としてしまうことがあります。そんなことがあってはならず、やはり社会内処遇が主流になるべきです。星野さんも社会内処遇で良いと思います。
 1960年に検事になって以降、刑事政策を見続けてきました。現在は、明らかに厳罰化の傾向にあります。法務省が公表しているデータでも、無期刑受刑者の終身刑化は進んでいます。2017年に新規に仮釈放になった人は8人です。無期刑受刑者の総数は1795人です。割合でいえば0・4%、1%にもなりません。その一方で、30人が亡くなっています。
 私は更生保護に携わった長い経験から、どんな人でも変わりうるという信念を持っています。私が保護局長の時代には、1年間に無期受刑者67人を仮釈放しました。現在の10年分です。それと比較するあまりにひどい現実です。
 それをもたらしたのが、1998年に最高検次長検事名で出された「マル特無期通達」です。これ以降、仮釈放が激減しました。さらに2009年の法務省保護局長の通達は、仮釈放審理にあたって、被害者や検察官の意見を聞くことを義務づけました。検察官が、仮釈放に積極的な意見を述べるはずがありません。
 2010年に日弁連は、仮釈放審理にあたって検察官の意見を聴取する必要はないという意見書を出しました。あの原案は、私と数人の弁護士が書きました。それを法務省の高官に会って渡してきました。
 ドイツは終身刑でも15年過ぎたら出すことができるという運用をしています。また、執行裁判所を設けています。刑の執行を指揮するのは検察官ではなく、この執行裁判所です。仮釈放の申請権を受刑者にも与えていますが、日本では検察官がすべての権限をもっています。つまり、刑の執行に関して司法的チェックがまったく働かないのです。

    熱意は必ず伝わる

 くじけてはなりません。星野さんのためにこれだけの人が運動しています。この熱意は必ず更生保護委員会に伝わると思います。
 地方更生保護委員は処遇の専門家であり、私が接してきた実感として受刑者を社会復帰させようという意欲に燃えている人たちが多いのです。検察官は「仮釈放はダメ」と言うのが仕事になっており、「不相当」というスタンプを作って押しまくっているのが実情です。迂遠な道かもしれませんが、法の改正も視野に入れていく必要があると思います。星野さん解放のために私も大いにがんばります。


   星野新聞第74号 掲載
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