星野再審弁護団は8月5日、東京高裁に三者協議の開催を求める意見書を提出しました。 意見書は、「証拠開示も三者協議の必要性もない」という6月3日付検察官意見書を徹底的に批判し、現場目撃者11人の供述調書の開示を求めています。 民間人現場目撃者11人の供述調書は、闘争直後の記憶も新しいうちに、また、捜査当局の星野さんへのでっち上げ方針が確定する前に取られたものであり、そこには星野さん無実の証拠が必ずあります。だからこそ、検察官は供述調書の開示を拒んでいるのです。 検察官意見書は、星野さんの「犯人性」について、Kr等の供述は信用できるが、現場目撃者11人は犯人に関する認識可能性がないと主張します。 しかし、Kr供述は「犯人識別の根拠であった服装の色について誤りがあった旨を……最高裁決定も認めている」(意見書)のであって、信用性は全くありません。Krさんらの「供述が最も信用性が高いなどとはとても言えない脆弱(ぜいじゃく)な証拠構造になっている」のです。 弁護団は、5月26日付意見書で、デモ隊のほとんどが黒っぽい服装の中で、薄青色の星野さんの服装は目立っていたことを指摘しました。「犯人に関する認識の程度」など問題ではなく、目立つ服装が殴打現場で目撃されていたか否かを現場目撃者供述調書で確認すべきだと主張したのです。 本年6月30日、熊本地方裁判所は松橋(まつばせ)事件について再審開始決定をしました。裁判所の証拠開示勧告に基づき検察官が開示した証拠の中に、無実を示す証拠があったのです。またしても、検察官が無実の証拠を隠していたことが明らかになりました。証拠開示をめぐる事情は大きく変化しています。松橋事件では、「供述調書」も開示されています。 東京高裁は、直ちに三者協議を開催し、検察官に証拠開示を命令せよ。 資 料 意 見 書
第1 意見の趣旨 証拠開示請求に関する検察官及び弁護人の意見書について、三者協議の開催を求める。 第2 意見の理由 1 検察官の本年6月3日付意見書について (1) 証拠構造が脆弱であること 検察官は、共犯者KRらの供述が最も信用性が高く、証拠開示を求める目撃者の供述は「犯人に関する認識可能性の有無及び程度や観察対象事項に関する記銘度において相当限定的にならざるを得ない」等と主張する。 しかし、上記共犯者KR供述については、犯人識別の根拠であった服装の色について誤りがあった旨を第一次再審請求に対する最高裁決定も認めている。KRは服装の色から請求人を特定・認識した旨記載してある供述調書があり、この供述が信用できないのであれば、供述調書全体の信用性が崩れることは当然の理である。 また、共犯者AOや同ARも、確定判決でさえ、その供述の一部を信用できないと認定している(弁護人作成の2015年3月13日付意見書参照)。 共犯者供述には引っ張り込みの危険がある上、本件共犯者は少年でもあり、客観的にもこれら共犯者らの供述の一部が信用できないことは確定審ないし最高裁判所によって認められてきているのであるから、検察官が指摘するように共犯者KRらの供述が最も信用性が高いなどとはとても言えない脆弱な証拠構造になっている。 したがって、第三者である目撃証人の供述調書の開示の必要性がきわめて高い。 (2) 事情の変更があること 検察官は、平成25年12月25日の三者打合せにおいて貴裁判所において職権不発動の判断をしたことを前提に、それ以降、事情の変更がないと主張する。 裁判所における職権不発動の判断の有無はおくとしても、本件で重要なことは、捜査報告書添付の写真及びネガフィルムの証拠開示によって、他の証拠開示に関して事情の変更があったと言うべきことである。 すなわち、上記開示証拠によって弁護人の主張が裏づけられ、犯行後に警察によって撮影された写真に犯行の痕跡が写っていないことから、目撃証言による現場殴打者の特定がさらに必要性、重要性を増している(2015年9月30日付意見書)。特に、同写真には請求人のヘルメットに中核の「中」が書かれており、服装の色も明確で目立つから(2016年5月26日付証拠開示請求に関する意見書)、請求人の特定も容易である。 これに加えて、検察官の指摘する平成25年12月25日以降においても、三宅意見書の提出や(2015年3月13日付意見書参照)、開示の必要性を疎明する資料等(2016年5月26日付証拠開示請求に関する意見書添付)を提出してきたものであって、これにより、さらに証拠開示の必要性が高まっており、検察官のいう「事情の変更」はあるというべきである。 2 刑事訴訟法の改正に伴う附帯決議の存在 さらに証拠開示の拡充を図るべき規範面において、「事情の変更」は明らかである。 すなわち本年5月、改正刑事訴訟法により、検察官に保管証拠の一覧表の交付を義務付けるなど証拠開示の拡充がなされたところ、衆議院ならびに参議院は「再審が無辜の救済のための制度であることを踏まえ、証拠開示の運用、刑事訴訟法第四百四十五条の事実の取調べの在り方をめぐる今国会の審議の状況の周知に努めること。」を旨とする附帯決議を採択している。 これからすれば、再審の「運用」においても、証拠開示を工夫し、積極的に進めることが求められていることは明らかである。 3 松橋事件の再審開始決定 また、広く報道されたとおり、証拠開示が決め手となって、熊本地方裁判所は本年6月30日、いわゆる松橋事件について再審開始決定をした。 これを受けて、報道機関各紙は社説に取り上げ、別紙「松橋事件再審開始関連資料」(7月2日付新聞各紙。ここでは省略)のとおり、 「全証拠開示の法制化急げ」(琉球新報)、「証拠開示さらに広げよ」(毎日新聞)、「全証拠開示の重要性増す」(福井新聞)、「検察は隠していたのか」(東京=中日新聞)、「全ての証拠開示を原則に 極めて妥当な決定だ」(徳島新聞)、「証拠開示の重要性示す」(京都新聞)、「もっと証拠開示が必要だ」(山陽新聞) として、さらなる証拠開示の必要性、重要性を唱えている。読売新聞が「自白の信用性を覆した新証拠」と題する社説において、「公正な審理には、証拠開示の徹底が不可欠である。」と述べているとおりである。 松橋事件の証拠開示で注目すべきは、「地裁の勧告を経て関係者の供述調書」(別紙 福井新聞 ここでは省略)も開示されていることであり、現に同再審開始決定の30頁以下では、詳細に新証拠の関係者の供述調書が検討され、開示決定の理由にもなっている。 本件のように深刻に犯人性が争われている事件においては、全ての証拠開示を原則とすべきであり、少なくとも弁護人が特定した証拠開示対象の目撃証人の供述調書について開示すべきである。 4 まとめ 以上のとおり、本件における証拠開示の必要性が高まっていることに加えて、刑事訴訟法の改正や松橋事件の再審開始決定からすると、ますます現行の再審においても証拠開示の必要性、重要性が高まっており、少なくとも証拠開示に向けての事情の変更は明らかである。 したがって、関係者においては、三者協議を開催して、証拠開示に向けて努力を積み上げるべきである。 なお、弁護人は、日程等について裁判所の御都合に合わせる用意がある。 以上 |