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映像証拠紛失を容認した最高裁
7月21日 ビデオ国賠上告棄却弾劾
星野さんの証拠利用権を否定
再審弁護人 藤田城治
 

 星野文昭さんに対する有罪判決の証拠になっていた、渋谷闘争当日の報道各社のニュース映像(デモ隊の様子が鮮明なカラー映像で記録されている)を録画したビデオテープが裁判所、及びそこから保管の委託を受けた警視庁公安部によって紛失された責任を問うビデオ国賠について、最高裁判所は7月22日「上告棄却」「上告審として受理しない」決定をした。
 星野さんの「証拠に対するアクセス権」を巡る本件は、2011年4月の提訴から、国(裁判所)・東京都(警視庁公安部)の責任を認めた東京地裁判決(2014年9月)、星野さんの訴えを全部棄却するという逆転敗訴判決(2015年5月、東京高裁奥田正昭裁判長・なお同じ裁判長に継続した面会手紙国賠でも地裁判決を取り消す不当判決を行った)を経て、最高裁はこの東京高裁奥田判決を是認する形で終結した。
 最高裁判決で示された理由は極めて単純である。「本件上告の理由は、違憲及び理由の不備をいうが、その実質は事実誤認又は単なる法令違反を主張するものであって明らかに上記各項(法定の上告理由)に規定する事由に該当しない」というものである。昨年5月末の上告、7月の上告理由書提出から約1年たってからの決定であり、結論はさておき、「証拠に対するアクセス権」という訴訟手続において重要かつ明確な権利の有無について、最高裁判所が何かしらの判断を示すのではないかと考えていただけに、この「肩すかし」の判決は非常に残念である。

■証拠へのアクセス権をめぐる争い
 本件の争点・判決を整理しておくと以下のとおりである。
 今回紛失されたビデオテープの「紛失」は、警視庁・裁判所によるずさんな管理が原因であることはほぼ争いのない事実であった。したがって、ビデオ国賠での争点は、ただ一点、再審請求人である星野さんに、再審事件のために証拠を閲覧し利用する権利=「証拠に対するアクセス権」が法的権利として認められるかどうかであった。
 証拠の紛失を巡る事件は過去にもあったが、「所有者」が原告となって、「財産権」の侵害を求めた事案であった。本件のビデオテープは警視庁が録画した物である。そこで、本件は、純粋な「被告人・再審請求人としての証拠を利用する権利=アクセス権」を問うものとしては初めてのケースであった。

■紛失の責任を問わないためのペテン
 東京地裁は、再審請求人には「新証拠と関連する旧証拠を検討評価する前提としてこれを利用する利益ないし期待権」があるとして、不十分ながら証拠に対するアクセス権を認めた。これに対し、控訴審判決で奥田裁判長は、「本件ビデオテープについて、裁判所職員又は保管委託先の警視庁公安総務課長において、本件ビデオテープが再審請求の審理において、重要な証拠として利用される蓋然性(可能性が高いこと)があることを知り、あるいは容易にこれを予見することができた場合には、再審請求人である被控訴人(星野さん)は、その限りにおいて本件ビデオテープを再審請求の審理において利用しうる利益を有するものというべきである」。つまり、保管担当者が「重要な証拠」と予測できるときには「アクセス権」が保障されるというものである。

■再審請求人の権利をおとしめる判決
 そして、本件ビデオテープのような映像証拠が重要な証拠となるかどうかについて、裁判所職員・警視庁公安総務課長とも知り得なかったゆえに、「星野さんの証拠に対するアクセス権」は保障されないというものである。
 刑事訴訟は、証拠の採否や評価を巡って、被告人と、検察官、裁判所とが激しく争う手続きである。刑事訴訟の「主役」である被告人の「証拠に対するアクセス権」が、「証拠を保管する者において重要な証拠であると予見できたとき」にのみ認められるという論理は、被告人・再審請求人の権利を著しくおとしめるものであり、到底、是認できるものではない。